なぜエンタメ企業は機械工学科に研究センターを置いたのか
エンタメ企業が大学に研究センターを置くということ
Galaxy CorporationとKAISTは、KAIST機械工学科に「AI エンターテック研究センター」を共同で設立した。除幕式は2025年4月9日、KAIST本院で行われた。
大学の中に企業名を冠した共同研究センターを構える——それは長らく製造業とバイオ、半導体の作法だった。研究の成果が製品になり、製品がまた次の研究課題を生む。その循環がはっきり見える産業である。
エンターテインメントはその一覧になかった。コンテンツの成否は感性と企画の領域とされ、大学の実験室からは遠いものと見なされてきた。
だからこそ、エンタメ企業が大学に研究センターを置くこと自体が一つの主張になる。エンターテインメントには研究すべき対象があるという主張であり、その研究はやがて舞台の上の成果に結びつくという主張だ。本稿では、その主張がどのような形を取ったのかを整理する。
連携が形になるまでの順序
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2024 | KAISTとGalaxy Corporation、K-POPのグローバル展開に向けてMOUを締結 |
| 2024年6月5日 | ジードラゴン(G-DRAGON、権志龍)がKAIST機械工学科の招聘教授に就任 |
| 2025年4月9日 | KAIST本院でAI エンターテック研究センターの除幕式 |
| 2025年4月9日 | 同日、「イノベート・コリア2025」でジードラゴンが「AI エンターテックの未来」をテーマにスペシャルトーク |
この順序には目を留める価値がある。先に協定があり、次に人が来て、最後に場所ができた。2024年のMOUが方向を定め、アーティストが教授として学科に加わることで結びつきが人格を得て、翌年の春に看板が掛かってその結びつきに住所ができた。
除幕式にはKAISTからイ・ギュンミン教学副総長、キム・ジョン機械工学科長、イ・スンソプ、ユン・ヨンジン両教授が、Galaxy Corporationからはチェ・ヨンホ代表とキム・ヒョンジョン理事が出席した。学科の責任者と教授陣が顔をそろえた式典だったという事実が、この連携が学科ぐるみの案件として扱われたことを物語る。
会社の全体年表はGalaxy Corporation 年表にまとめている。
なぜ機械工学科なのか
この連携について、最も見落とされやすい事実が一つある。このセンターは情報工学科ではなく、機械工学科にある。
エンターテインメントとAIの結合と聞けば、たいていは生成モデルやデータ、レコメンドのアルゴリズムを思い浮かべる。そうした研究が置かれる場所は、普通なら情報工学だ。ところがGalaxyとKAISTが選んだのは、ロボットと動力学と制御の学科だった。
この選択は、会社が2年後に手がけることを先回りして告げている。ヒューマノイドロボットに舞台でK-POPの群舞を踊らせるには、コンテンツの技術だけでは足りない。人間の関節可動域をロボットの身体へ移し替え、足の接地力を制御し、重心の補正を計算に落とし込む必要がある。どれも機械工学の言葉だ。
画面の中で完結するAIにとって、重力は問題にならない。しかし身体を持つAI——Physical AI(フィジカルAI)——にとって、重力は真っ先に解くべき条件になる。エンターテックが画面を離れて物理世界へ出た瞬間に、必要とされる学問が変わる。学科の選択が、それを先に示していたわけだ。
舞台で実際にどの技術が噛み合うのかは、ロボットはいかにして舞台に立つのかとソウルウェア白書で扱う。
何を研究しているのか
公開されている研究領域は、四つの筋に整理できる。
| 研究領域 | 内容 |
|---|---|
| デジタルツイン | アーティストを対象としたデジタルツイン技術——実在する人間の動きと特性を、デジタル上の対応物へ移し替える |
| アーティストアバター | K-CULTUREとAI・ロボット・メタバースの融合によるアバター開発 |
| インタラクティブ公演技術 | AIを基盤とするインタラクティブな公演と没入型コンテンツ |
| エンターテックプラットフォーム | AI基盤のエンターテックプラットフォームとグローバルコンテンツ技術の共同研究 |
四つの筋を貫くのは、一人の人間をデータへ移し替えるという作業だ。デジタルツインがあるアーティストの動きを座標に変え、アバターがその座標に姿を与え、インタラクティブ公演がその姿を観客の前に立たせて反応させる。プラットフォームは、その全部が流れていく管をつくる。
この方向は、会社が長く続けてきた仕事とぴたりと地続きだ。Galaxyは芸能人の「副キャラ」IPを企画するなかで、一人の人物のアイデンティティをもう一つの人格として立ち上げる方法を先に身につけた。その対象が番組の中のキャラクターからデジタルの対応物へ、さらにロボットの身体へと移っていく——その過程に、大学の研究が置かれている。
KAISTのAIと最先端技術をファンダムプラットフォームに掛け合わせ、まったく新しいエンターテインメント体験を届ける。その出発点です。— チェ・ヨンホ Galaxy Corporation代表 · 2025年4月 除幕式
産学連携が「調律する構造」で担う役割
Galaxy Corporationは、ロボットのハードウェアもファウンデーションモデルも自前ではつくらない。各所で育った技術を一つの公演へと調律する層に立つ。この構造には、必ず投げかけられる問いがある——つくらない会社は、技術の源流にどうやって触れるのか。
産学連携は、その答えの一つだ。大学の研究室は製品になる前の段階の技術が育つ場所であり、研究センターはその段階へ近づくための通路になる。完成した技術を買ってくることと、つくられていく過程に居合わせることは、まったく別の話だ。
科学技術の力が権志龍教授のグローバルな感覚と結びつき、K-CULTUREの技術的な進化を牽引していくはずです。— イ・グァンヒョン KAIST総長 · 2025年4月 除幕式
連携の相手は大学にとどまらない。Galaxyのパートナーシップは、ハードウェアの供給、オペレーティングシステムの適用、空間・公演の運営、ブランドとIPの結合、産学研究、海外拠点という六つの筋に広がる。産学は、そのなかで最も上流に位置する筋だ。
技術を所有せずに調律する構造の全体像は技術を所有せず、調律するで、エンターテックの4層スタックはEnter-Tech 白書で、協業の条件はパートナーシップ・B2B FAQで扱う。